日本では、ひと昔前によく見られた「おんぶ」ですが、欧米ではこの「おんぶ」スタイルを「Piggy Back」と言って、ほとんどやらないようです。
しかし、この「おんぶ」こそが、子どもの社会性を涵養するものだとして、お茶の水女子大学名誉教授の榊原 洋一教授は「おんぶ」を「重要な子育て法」として推奨しています。
榊原教授は、自身の説の中で、明治10年に来日したアメリカの動物学者エドワード・モースが、日本人親子の「おんぶ」を観察して、大いに賞賛したという日記文を紹介しています。
” この子どもを背負うということは、至る処で見られる。婦人が5人いれば4人まで、子どもが6人いれば5人までが、必ず赤坊を背負っていることは誠に著しく目につく。(中略)赤坊が泣き叫ぶのを聞くことはめったになく、又私は今迄の所、お母さんが赤坊に対して癇癪を起こしているのを一度も見たことはない。私は世界中に日本ほど赤坊のために尽くす国はなく、また日本の赤坊ほどよい赤坊は世界中にないと確信する ”
また明治22年に来日したイングランドの新聞記者エドウィン・アーノルドは、その著書の中で、次のように述べているそうです。
” 背負われた子どもは、おんぶによって、あらゆる事柄を目にし、ともにし、農作業、凧あげ、買物、料理、井戸端会議、洗濯など、まわりで起こるあらゆることに参加する。彼らが四つか五つまで成長するや否や、歓びと混じりあった格別の重々しさと世間智を身につけるのは、たぶんそのせいなのだ ”
そう言われてみると私自身も大いに思い当たることがあります。
娘がまだ幼い頃、一緒にお祭りを見物に行ったのですが、街中が混雑していた為、車を会場からかなり離れた場所に停めて、歩いて見物に行きました。
その帰り、また歩いて戻る途中のこと。
娘が脚が痛いと言い出し、私は娘をおんぶして帰りました。
その途中に今は無き、古い市場の中を通りました。
市場は、戦後河川を暗渠としてその上に造られた為、細長く、魚屋や肉屋、八百屋、食堂など実に様々な店がひしめいていました。
その間の通路を娘をおんぶしながら、目線と顔が近い近いので、「ほら、ここは魚屋さん。こっちは、八百屋さんたい!」などと話しながら帰った記憶は、今でも鮮明な思い出となって残っています。
まさに、この体験こそが榊原教授の説の中に出てくる「共同注視」(ジョイントアテンション)であり、発達心理学の重要な研究対象になっているそうです。
モースやアーノルドの指摘は、まさに「おんぶ」による共同注視が、子どもの社会性の発達を助けていることの描写であると教授は結んでいます。
息子も娘も、保育園への送り迎えの際、自動車よりも自転車の方を喜びました。
「おんぶ」とは違いますが、これも共同注視ではないかと思います。
また「バランスをとりながら揺られる」という行為が、心身のリズムにとって良い作用をしているのだと思います。
これは少し「ホース・セラピー」に通ずるところがあるのかもしれません。
私は、もっと「おんぶ」をしておくべきだったと思っています。