この作品が、「小さい おうち」など他の物より知名度が高くないのは、本のサイズがコンパクトで横長ということでしょう。
しかし、子どもに布団の上で読み聞かせするのにはちょうどいいサイズだと思います。
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物語によく登場する悪役には、「すごみやスチンカー」や「ちびスカンクのスキーター」といった悪役らしからぬ名前がついており、それがおそらく子供にはとっても親しみが持てるでしょう。
そして「み目うるわしく」などといった、少し難しい言葉があったとしても、子どもは「〇〇~~て何?」とたずねたりする、その親子のやり取りで、さらに物語に興味深く入っていくことができるでしょう。子どもは、そういった難しい言葉も、ちゃんと理解するものです。

そして何より59歳という若さで早逝した作者バージニア・リー・バートンでしたが、この世の中の「本質」や「真髄」というものがよくわかっていた人でした。

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他の物語ともっとも違うことは、悪者が出てきて、結局その悪者を懲らしめて、「めでたし、めでたし」で終わりという展開ではないことです。
あまり詳しく述べると興覚めになるので、やめておきますが、「勧善懲悪」ではなく、どのような存在にも純粋な部分があり、赦し合って存在しているとでも言うのでしょうか。悪役を「悪者扱い」せず、「生命」としてリスペクトとした上で物語を構成しています。
その何よりの証拠が、この「名馬キャリコ」の英語題です。
英語題は、「Calico the wonder horse     or    The saga of stewy stinker」という長いものです。
特に日本題には無い「 The saga of stewy stinker」を直訳すると、「(食べ物のシチュー)のようなスティンカーの物語」となります。スティンカーは、物語に登場する「悪役」のボスのことです。日本版では「すごみやスチンカー」となっています。
「Stewy」はシチューのようなという、とても翻訳しにくい言葉なのですが、派生的な意味としては「異質の物をグツグツ煮る」といった意味があるので、様々な個性を持ったメンバーを束ねる親分のスティンカーといった意味で、この表題をつけたのかもしれません。
作者バージニアは、スティンカーらを、個性を持った存在として扱っていることが、子どもにとってはとっても新鮮で、面白く感じさせるという狙いをもっていたようです。

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「ちいさいおうち」は、「名馬キャリコ」の翌年に刊行され、日本でも大ヒットとなった。小さいおうちが段々と都会化されて荒んでいく話だが、バージニアは「人間の生活には自然が絶対に必要」だと、この頃から訴え、自身もボストン郊外の静かな場所に住み、生涯を終えた。

バージニアの絵本の作り方も他の海外の絵本作家と同じく、自分の子どもをメインに創り出したものです。
彼女は、本にする前に、各ページを大きな絵に描いて、子どもたちに見せ、反応を見ていたそうです。とってもよく考えられていたものなのです。

ですから、子どもは子どもなのですが、「子ども扱い」された絵本を好むわけではなく、むしろ子どもが生まれながらに純粋に持つ「生命へのリスペクト」や「〇〇扱いしない公平性」をちゃんととらえていたということなのですね。

キャリコが馬であるのも、「不誠実な人間には決して従わない」という馬の本質を理解していあtからこそかもしれません。そういった意味でキャリコは、「名馬(Wonder horse)」なのですね。

世界中で戦争や争いが勃発している今だからこそ、第二次世界大戦直前の1941年に発刊された、この物語を親子でぜひ読んでほしいと思います。

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バージニアは、ダンスが得意で、ダンサーを目指していたという。今も残る、この石のテーブルの上で彼女は時折はなやかなダンスを披露した。


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