適する。ただし、条件はある。1頭飼いをすること。
牝馬と一緒、もしくは近くでの飼養だと役馬となることはできないだろう。これは実際に長崎市内で荷運びを生業とされていた浦川さんもはっきりと述べられたことである。
(ちなみに去勢していないオス馬を牡馬(ぼば)、去勢したオス馬を騙馬(せんば)と言う)
中には牡馬、つまり去勢をしていない状態だと曳き馬や乗馬用馬としても使えないと考える人もいるが、そうではない。あくまで条件次第なのである。人間の体もそうなのだが、それぞれの臓器は絶妙なバランスでもって成り立っている。生殖器を取ってしまうことは、もちろんその生体にとって大きな影響を及ぼす。十分な精査や準備が行われないまま簡単に行われるようなことはけっしてあってはならない。
私個人としては生来、人が手を一切触れたことがなかった対州馬の牡馬を飼養し、独学で調教した。かなり早い段階で信頼関係が築け、この牡馬に攻撃されることは生涯ただの一度もなかった。
私が半野生馬だった牡の対州馬を長崎市に連れてきて2年が経った頃、ある事情から放牧地を移動しなくてはならなくなった。まだ歩行訓練も十分ではなかったが、馬運車に乗せて移動という、かなり難儀なスキルを短期間でマスターしなくてはならなくなった。結果的に対州馬のポテンシャルの高さか、信頼関係が功を奏したかは定かでないが、移動は無事成功した。事前に移動中馬が暴れるというリスクを想定して、誰か馬の扱いを知る者の助っ人を探した。私の古い教師仲間の学校に来ていたカナダ人のALTが、叔母が馬を飼育しているという話を聞き、その男に頼むことにした。しかし、そのカナダ人は事前のメールのやり取りの中で非常に馬鹿げたことを書いてきた。「去勢していないスタリオン(牡馬)は危険だから去勢した方がいい」と。おそらく彼の叔母さんの牧場では種馬以外の牡馬は乗馬などで使うためにさっさと去勢してしまうということなのだろう。「そんなことで去勢するくらいなら、わざわざ牡馬の対州馬を飼ったりしない」と返したかったが、馬鹿馬鹿しいのでやめておいた。
はたして、私の馬はさしたる問題もなく軽トラックを改造した馬運車(実際に荷運び屋さんがつかっていたもの)に乗り、すんなりと次の放牧地まで移動した。

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