「 疝痛(せんつう) 」

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「疝痛」。・・・馬を飼養するものにとって、この言葉ほど恐ろしいものはない。
現に私の大切な馬も、これによって「ある日突然」命を奪われてしまったのです。
正直に言うと、この記事を書くことですら非常に苦痛をいます。
馬を所有するということは、所有する喜びのすぐ裏側で、常にこの疝痛という恐怖と向き合っていくことになるのです。
そして、旅行に行く朝や大事な行事のある朝も、この疝痛という恐れを何日も前から保持することになります。これは、個人で飼養する以上、最も苦痛なことです。よく他人から「馬を飼うのは、大変でしょう?」と言われることがあります。その言葉はまったく持って余計な言葉で面倒くさい言葉なのですが、一応邪険にするのもなんなので、「いや、馬が好きだから毎日馬と関われる時間は楽しいのだ。馬好きとはそういうものなのだ」と返します。
実際、馬が寄ってくる表情を見たり、餌を食べている姿を見るのは一般の人にはわからないと思いますが、至福の時なのです。つまり私は馬のおかげで毎日至福の時をもらっていたのです。だから馬の世話をする時間が一日の中から無くなってしまった時は、楽などではなく、とても辛い時間帯になってしまいました。一日全体が空虚なものになってしまっていたのです。
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だから世話が大変なのではなく、常に油断のできない「疝痛」という恐怖を保持することが大変なのです。それが唯一、馬を飼養する上で大変なことと言っても過言ではないです。
なぜこの疝痛があるのか? それは馬を飼養することそのものに原因があります。いや、正確に言うと、馬本来の生態に近い飼い方をしているモンゴルなどの地域では、ほぼこの疝痛の恐れは無いと言えるでしょう。
端的に言うと、馬の胃腸は、その体に対し非常に狭く長い。つまり食物が詰まりやすいということです。これは、肉食獣に襲われた時に咄嗟に走って逃げるという選択をした動物だからです。体に食物が長くあると体も重くなり逃げ遅れてしまいます。だから、自然界の馬は、草を少しづつほぼ一日中はんでいます。その生態に合わせた胃腸の構造になっているということです。しかし、馬を人間が飼養しようとする場合、馬が一日中草を自由に食べても大丈夫なほど広大な牧草地で飼われるという環境下で暮らせる馬はほんの一握りでしかありません。ご存知の通り、大金を動かす競走馬など一部の馬だけなのです。
大変無知であった私は、恥ずかしながらある程度の広さがある場所で馬を飼えば、馬が食べるスピードと同じくらいの早さで草を生えるだろうと、とんでもない勘違いをしていました。放牧地に放された馬は数日でそこに生えている草を食べつくし、土地を丸坊主にしてしまいます。あとは飼料とその周りで刈り取れる一握りの雑草でしのぐしかないのです。
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ところでJAなどが扱っている乾草などの飼料で馬専用というものはありません。あるのは牛のものだけです。牛肉が食卓に欠かせないものであることから、牛の飼育は盛んに行われており、当然飼料も豊富にあります。よって草食である馬の飼料を確保する場合、この牛の飼料に頼るしかないのです。しかし、悲しいことに、ここが悲劇に根本とも言えるのですが、胃腸のシステム・構造は馬のそれと悲しいほど異なっています。走って逃げることを選ばなかった牛の胃腸は太く短く容量も大きいのです。一度飲み込んだ食物を4つの胃で繰り返し反芻しながら食べることは結構知られていると思います。
つまりこの牛用の餌を牛と同じような感覚で与えるということは決してあってはならないことなのです。では、他の方法がない上でチモシーやオーツヘイなどの乾草を与えざるを得ない場合、どのような注意が必要か?それは、①とにかく少しずつ回数を多く与える ②早く飲み込み過ぎないように時間をかけて食べさせる の2点に尽きます。
①では、通常1日の給餌量を3回に分けてやるのが精いっぱいでしょう。しかし、私のような個人飼養者の場合、朝・昼・夕と給餌していたら、とてもではないが、私自身の生計が立ちません。どうしても2回になってしまいます。朝早く行って餌を与え、その足で仕事に行き、帰りに放牧地に寄って餌をやってから帰宅するということが何回もありました。思えば、馬もひとりぼっちの時間が長く、結果的にそれで命まで落としてしまったのだから、なんと可哀そうなことをしてしまったのだろうという自責の念にかられます。馬が生きている時から心の奥底で「もし、この馬が死ぬようなことがあったら、どんなにか悲しいだろう」とは思っていたのですが、実際はその想像も遥かに吹き飛ぶくらいの悲しみでした。いや、悲しみという概念をも超えるものでした。その瞬間を迎えた時に衝撃はとても文章では言い表せるものではありません。自分の人生が終わったと実感しました。もうこの悲しみに向き合うよりは死んでもいいとすら思うようなものでした。読者には、けっして私と同じ体験をして欲しくないと切に願います。
しかし、敢えてこの体験を封印せず、このように文章にするのは、二度とこのような悲劇が馬とその馬を愛する人に同じような悲劇が起こって欲しくないからに他なりません。
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今後、もしかすると私と同じような志を持つ人が出てこないとも限りません。その場合、どのようにすれば馬にとっても飼養者によってもベターであるかについて述べておきます。
まず回数は3回に分けるべきです。従って私のように一個人で所有・飼養するのではなく、せめて5~6人の共同体をつくるべきでしょう。その5~6人で志はもちろん、経済的負担と世話、調教を分配する。これがもっとも重要な条件と思われます。もちろん行政が関われればそれにこしたことはないですが、逆に制限・制約がかかりそうなので現段階ではあまり期待できません。金銭的分配や労働力分配をすることで、できるだけ高額な牧草を与え、あるいは雑草を存分に食べられる場所まで連れていくことが可能になります。おまけに誰にでも扱える馬になって、いろいろな人に慣れていく訓練にもなります。
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では次に疝痛を起こしたらどうすべきか?まず、この状態になったことがすでに「恐るべき事態」なのですが、結果がどうあれ、やれることをすべてやらないと当然、後悔が残ることになります。いや、後悔はその後確実に日々増大します。(その時にやれることをやったとしても、当然後になると、あれもできたのでは?これもできたのでは?とう思いは出てくるのですが)
対処法については、web上にいろいろ出ているので、必ずそれらを一通り目を通してください。
私からアドバイスしたいのは、自然の治癒力に頼るのは本当にもう最後の段階だということです。
結果として最悪の状況に至るとしても、手を尽くし続けてほしいのです。

①薬の投与
私の場合、知り合いの獣医から薬を取り寄せてもらい、常に常備していました。
まず座り込んでいる馬に対し、バナミンペーストを経口投与します。口の横の歯のないところから、できるだけ舌の上にこすりつけます。そしてさらに30分後、プロナミド30gを水で溶き、ペースト状になったところころで同じく経口投与します。ここまでで1~2時間後馬が元気を取り戻し、食欲を見せたら必ず、水分を摂らせることを考えるべきです。夏場だったらスイカの赤い実の部分でもいいし、野菜ジュースでもいいです。とにかく油断せずに馬が元気なうちに水分を摂らせることです。もちろんただの水でもいいのですが、置いてある水桶からあまり水を飲まない馬ならば、バケツに水を汲んで口元まで持っていって飲むかどうか試してください。

②薬の投与でも回復しない場合
馬を見ることができる獣医に連絡をし、診てもらうべきです。どうしても往診が無理であれば、馬の状態を詳しく伝え、アドバイスを仰ぐことが大事です。不明な点があれば、しつこいぐらい聞いてください。しかし、その獣医の支持が全て正解だと思うのは禁物です。あくまでそれは医師の一見解であって、回復を保証するものでも何でもありません。最終的には自分の判断でやれると思うことはすべてやるべきです。

口から水分を摂れるか試してください。前述のように水桶まで行く力がなくてもバケツでは飲むかもしれません。バケツで飲まないなら例えばケチャップの容器のようなものに水を入れ口の横から差し込み、水を入れた後、頭を上げさせる。これで水を飲むという意見はwebでは見たこともないし、聞いたこともないですが、死ぬよりはいいです。

次に浣腸するもし水道ホースが馬体まで届くならホークの先を肛門に差し込み水を入れます。とりあえず入るだけ入れてよいと思います。入らない分は流れ出てきます。もしホースがないのなら、灯油ポンプと水バケツで試してください。そのために灯油ポンプの先を丸く肛門に入りやすくしたものを常備してください。
水道の利点は断続的に水を送り続けるということです。一方、ポンプの利点は圧の高い水を噴射できるという点です。従って両方を試すべきと考えます。

馬房に繋ぎっぱなしの馬なら、無口を付けて10分ぐらいを1セットとして歩くだけ繰り返します。
もうそれしかありません。
あと、ノロメクチンなどの駆虫薬を半年に1度忘れずにやることも大切です。

ちなみに私の給餌メニューは、朝リンゴ4分の1個、フスマ3つかみ、ニンジン1本を混ぜたものを水でといてお粥状にしたもの、オーツヘイ(量はその馬やシーズンによって違う。5~7kgくらいかと思う)を地上に置いたセメント船にあけ、20リットルぐらいの水でひたひたにする(冬場はお湯、冷水は本当に猛暑の夏日のみ)。

夕は朝のメニューに加え、雑草を一抱えぐらい与えます(雑草にもけっこう毒草があるから注意)。トレーニングの時はよくできたときに褒美としてバナナを2分の1くらい与えます。
そして塩分も消化にとって大事なので、かならず1年中鉱塩を置いておきます(JAで買える)。
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厳しい現実だが、馬を飼うということは疝痛という恐怖と戦い続けることなのです。それを極端に恐れるあまり、自然に近い状態で飼養しようとすればするほど、調教からは遠ざかっていきます。疝痛を回避しつつ調教も両立させるには英知が必ず必要となります。また、信頼できる仲間も。