JR長崎本線の「肥前七浦(ななうら)」駅は、佐賀県鹿島市大字音成にある無人駅ですが、長崎本線の昭和時代のイメージをほぼそのまま残している貴重な駅舎だと思いますので、当ブログにて紹介したいと思います。

肥前七浦駅は、昭和9年4月16日、JRの前身である鉄道省によって、有明線(現・長崎本線)の駅として開設されました。駅舎の外観は当時のままの姿をとどめており、標題のごとく、「活気に満ちた昭和の汽車旅の記憶」を今の時代に、彷彿とさせてくれます。
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長崎本線は、長崎市・諫早・島原方面と、鹿島・佐賀市及び福岡方面を結ぶ、有明海沿いを走る路線で、幼い頃の私は、夏休みともなると、当時佐賀県杵島郡白石町に住んでいた祖父母を訪ねるために、鈍行列車に乗って眺めた、言わば「こころの風景の鉄道」でした。

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鈍行列車は、もちろん各駅停車ですので、停車するたびに、その駅舎や近くの風景、行き交う人々の様子などを、それこそ目を皿のようにして?眺めていました。
夏は、窓を全開にしていますので、潮の匂いはもちろん、畑や牛舎などの匂い、また有明海特有の干潟の泥の匂いなどもなども、各駅で微妙に違っており、それらの全てを子どもながらに楽しんでいたように思います。
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今は無人駅となっていますが、駅舎の中に一歩入ると、駅員さんがいた頃の情景がまざまざと浮かび上がってきます。
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かつて駅員さん達のいたスペースは開放され、ゆっくりとくつろぐことができるようになっています。向かって右側が切符売り場で、左側が鉄道を利用した小荷物等の取り扱い口ですね。
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駅員さん側から、待合室側を眺めるのも、なかなかおつなものです。
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こうやって眺めていると、当時多くの人々が賑やかに行き交っていた様子が浮かんでくるようです。
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荷物を受け渡しした台の表面は、すり減っていますが、非常に滑らかで、長年の使用を物語っています。そういうものの感触を直に触れて味わうことができるのも、実物の強みというか、楽しみのひとつですね。
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出札口や、列車を確認するスペースに立つのも、童心に帰って、なかなかいいものです。
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ちょうど特急列車が通過していきました。
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春夏秋冬、時代時代によって、様々な景色があったことでしょう。
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早く目的地に行く事だけが重要ではない、鉄道の旅を再確認させてくれる気がします。
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今では乗降客数もかなり減ってしまったようですが、この駅舎は、「心の風景を保存する駅舎」として、これからも重要な役割を果たしていくことでしょう。
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駅前に立つ、桜の古木。幹は哀れにもえぐれたように裂け、痛々しい姿をさらしていますが、春にはまた満開の花で、人々を楽しませてくれることでしょう。
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毎年6月に開催されている「がたりんぴっく」という、干潟を利用したイベントの日には、臨時に特急列車が停車し、多くの人で賑わうそうです。
暑い夏と干潟の潮と泥の匂い、そして笑顔の子ども達、それがよく似合うのが、この肥前七浦駅なのです。
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