西海市大瀬戸町多以良内(たいらうち)郷。多以良川に沿ったのどかな田園の中に建っているのが、平成25年3月末をもって閉校となる西海市立多以良(たいら)小学校です。同校は松島小学校、雪浦(ゆきのうら)小学校幸物(こうぶつ)分校とともに瀬戸小学校へ合併となり、瀬戸小の名をを大瀬戸小学校と改称して25年度より新しくスタートします。

写真を撮ったのは24年3月21日。次の日が終業式ですので、この日が「授業のある普通の日」ということになります。
ぜひ子どもたちの普通の様子を見ておきたいと思い、出向いてみました。
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校地のすぐ横を流れる多以良川は護岸こそブロックで整えてありますが、自然な状態の河川が残されており、まさに「ビオトープに抱かれた学校」という印象です。きっと四季を通じて様々な体験学習がこの場所で行われ、多くの子どもたちにとって想い出の多く残る場所であることでしょう。
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この地に学校が創設されたのは、明治6年の多以良村時代です。同19年に簡易小学校、26年に尋常小学校となった後、明治42年に現在の場所に新校舎が建てられました。
以後の沿革です。

大正  4年 校歌制定
大正  7年 児童数 258人
大正12年 木造総2階建増築工事
昭和10年 児童数 283人
昭和16年 多以良村国民学校と改称
昭和20年 児童数 302人
昭和22年 多以良村立多以良小学校と改称 多以良中学校を併設
昭和30年 町村合併により大瀬戸町立多以良小学校・中学校と改称 児童数 261人
昭和31年 新校舎増改築完成 木造モルタル2階建て
昭和40年 児童数 216人
昭和48年 創立100周年記念事業として小学校発祥の地記念碑を設置
昭和50年 多以良中学校が大瀬戸中学校に統合 児童数 121人
昭和58年 新校舎及び体育館新築、増改築完成
昭和60年 毎月1日を「少年の日」と制定、登校中に空き缶やゴミ拾いをすることを決定 児童数 79人
昭和61年 学校園をPTAとの共同作業により職員室南側に設置
昭和63年 少年の日のびのび事業として保護者、老人会と餅つき大会を開催
平成  5年 町内全学校完全給食開始
平成17年 町村合併により西海市立多以良小学校と改称 児童数 62人
平成18年 多以良ん子どんば育て隊(学校支援会議)発足
平成25年 閉校 児童数 26人

下の写真は昭和16年に撮影された多以良村青年学校の生徒達です。国民学校と同じ場所で撮影してあることから、青年学校は併設されていたものと思われます。
戦争の足音が日増しに迫ってきていたこの時代。写真に写っている青年たちは無事に戦後まで生き残られたでしょうか。実業教育が行われていた青年学校ですから、中には長崎市の工場などに派遣された方もいたかもしれません。

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昭和19年3月に撮影された国民学校の卒業生たちの写真です。太平洋戦争真っ只中ということで、先生はゲートルを巻いており、兵隊帽を被った生徒の姿も見えます。
多以良村に空襲等の被害が及んだことはないと思いますが、地理的に航空廠や基地があった大村市の真西にあたるので、通過していくB-29の大編隊を見ることも多かったのではないでしょうか。
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この写真には戦時中の食料増産の為か、住人が総出で田植えをする姿が写っています。おそらく年配の方が多かったのではないかと思いますが、これだけの人数が揃ったということは、この頃多以良地区が多くの人口を抱えていたことを示しています。
年表でも昭和20年が児童数302人で最多となっています。
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昭和31年に完成した大瀬戸町立多以良小学校・中学校時代の校舎です。
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多以良小学校へと続く町並みです。旧道の面影を残しています。
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ちょうどこの時は菜の花が咲き、桜のつぼみもほころび始めていました。春にはこの景色の中を新一年生たちが歩く姿が見られたことでしょう。
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昭和58年に完成したという校舎。築29年ですが、明るい色彩でまだまだきれいな校舎ですね。
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校門を入ってすぐのところにある「希望の像」と校歌歌碑。「希望の像」は創立110周年を記念して、昭和60年に校章、観察池とともに設置されています。
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大正4年11月に制定された校歌も大事にされていることがわかります。
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ちょうど昼休みなのか、子どもたちがグラウンドに出て遊んでいるところでした。子どもたちの活動する姿があってこそ、「学校」は生きていることを実感させてくれます。
そしてそれは実にほっとさせてくれる光景です。
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朝夕に子どもたちが通い、時にグラウンドを駆ける姿が見られる。そして何より運動会や文化の拠点としての学校。それは100年以上、毎日当たり前にあることでした。
しかし、こんな風にお昼に子どもたちが遊ぶ姿が見られるのも、この日が最後となります。
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終業式前で忙しいはずなのですが、最後の休み時間を一緒に過ごそうということで、一人の先生がグラウンドに出てきて子どもたちと一緒にボールを追いかけていました。気持ちはよくわかります。この学校で共に過ごしてきた子どもたちと顔を合わせる時間もも、もうほとんど残されていないのですから。
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年表の中にありましたが、「多以良ん子どんば育て隊」とは何でしょうか?詳しいことはわかりませんが、児童数が少なくなっても、否少ないからこそ、地域で子どもたちを暖かく見守って学校を支援していこうという気概が伝わってくるような気がします。

こんなひとつの看板を設置してあることからもPTAの方達の熱心な気持ちが伝わってきます。こういったことは、都会部の大きな学校ではなかなか行われにくいことではないでしょうか。
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蒼い空と新緑に映える校舎。しかし、それはやはり子どもたちが通う学校であるからこそ輝いて見え、そこに「鼓動」が感じられるのでしょう・・・。
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