諫早市(旧北高来郡)小長井町小川原浦(おがわはらうら)。有明海に臨む、のどかな海岸近くに、ひとつの碑が立っています。
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すぐ傍には小長井小学校があり、この場所には子ども達のにぎやかな声が響いています。
この碑は、戦時中の昭和19年11月21日、ここから約500m離れた海中に墜落したB-29搭乗員の霊を慰めるために立てられたものです。
画像に見える花は少ししおれていますが、しおれているということは、生花が最近手向けられた、ということでもあります。
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碑には、当時の出来事を綴った作文がこう刻まれています・・・・・

『 わたしたちは やたらにわめき走りまくった

いっときもしゃべらずにはいられなかった

どんなにみごとに命中したか 
銀の翼がどんなに輝いたか

いかに ゆっくり 落ちていったか

尾根を越え 部落を越えて 走ったのだ

みんなの証言は どこかすこしづつ違っていたが

だれのことばも だれの言うことも みんな信じられたのだ

尾翼だけが海面に突っ立っていた

トラックの上には すでに 引揚げられた飛行士がころがしてあった

どよめく群集に向って 髪の毛をつかみ ぐいとあげられたその顔は

桜色の 少年のおもかげをもっていた

はじめて鬼畜をみた やすらかな ねむりの 姿勢だった

その頬に消防団員の平手がとんだ

 

わたしは少年飛行士となるはずだった 
異郷の地に華と散るはずだった

わたしは わたしのまぶたが ぬれるようにかんじられた 』

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撃墜されたアメリカ軍の長距離爆撃機B-29に搭乗していたのは、ジョセフ・キルブルー機長以下11名。全員死亡しており、海岸に引き上げられた後、この地の海岸に埋葬されました。(戦後、遺骨はアメリカ軍によって引き取られました)
最年少の搭乗員は、わずか19歳であったようです。
(画像は引き上げ後、大村航空廠に移送された墜落機)
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小学校近くの海岸から見た有明海。どこまでも蒼い空が続いています・・・・。
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あさり獲りでしょうか。漁をする多くの人たちに混じって、水鳥などの姿も見えます。
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海を眺めた丘の、すぐ背後に搭乗員の名を刻んだ慰霊碑があります。
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墜落したB-29は11月21日、109機の編隊で中国・成都の基地を飛び立った後、午前10頃大村の海軍航空廠を爆撃後(爆撃を行ったのは61機)、日本軍戦闘機により撃墜されています。
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墜落の原因は、日本軍戦闘機による「体当たり」攻撃です。B-29の巨体はふらふらと尾根をかすめながら、同地海岸に落ちています。
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碑には「祖国の為に命を捧げ、散っていった搭乗員たちの霊を慰めるために」といった内容の英文が刻まれています。
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碑に供えてあったワンカップを見ると、2012年3月に製造されたものでした。碑を訪れた日から、それほど経っていません。
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このB-29に体当たり攻撃をしたのは、大村・第三五二航空隊所属で零式戦闘機に搭乗していた佐賀県相知町出身のパイロット、坂本幹彦中尉(当時22歳)。爆撃機来襲の報を受けた日本軍側は、大村基地より大村航空隊及び第三五二航空隊の零戦・月光・雷電など59機で迎撃しています。
(画像は在りし日の坂本中尉)
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体当たり攻撃をした坂本中尉機は、諫早市高来町の山中に墜落。中尉のパラシュートも開かず、この地で戦死しています。
その後、落下地は地元の住人により発見され、現在は中尉の死を悼む碑が立っているそうです。いつか、その地も訪れてみたいと思っています。
(坂本中尉が搭乗した零戦52型と同型機)
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日本本土を空襲し、多くの非戦闘員も犠牲にした代名詞でもあるB-29。長崎市民にとっては、やはり原爆を投下した「ボックス・カー号」のイメージが強くあります。空襲により全国で多くの犠牲者が出たことは事実です。しかしまた3,000人とも言われるB-29搭乗員の犠牲者が出たこともまた事実なのです。
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(ボックス・カー号の垂直尾翼)
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戦死した坂本中尉とB-29搭乗員。ともに、この後同型機によって原爆を投下されることも知らずに、この地で亡くなっていったわけです。

個人的には何の恨みも無く、国家の為、家族を守る為と信じつつ死んでいった多くの若者たちの命を思う時、あらためて「戦争とは何だったのか」という想いが込み上げてきます・・・。
そしてまた、この碑が子ども達の元気な声が響く場所に立っていることが、何よりの慰めであるとも感じました。
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*(説明のためにやむなく資料を引用させて頂いております。目的は戦争の悲惨さと平和の尊さを若者や子どもたちに伝えるです。ご了承のほどお願い致します。今後は現代の世相を鑑みて、ブログとしてのコンプライアンスをより重視してのぞみたいと考えております。2016年7月