軍艦島の元々の姿は現在の約1/6にすぎない岩礁であったという事実を知った時は、「なぜそうまでして、こんな場所に炭鉱を開いたのか?」と驚いてしまったのですが、それは、それほど特異なこととは言えなかったようです。
「試錐(しすい)」とは、つまりは炭層を探るためのボーリング調査です。地下にどれくらいの炭層があるのか?・・・莫大な経費を要する炭鉱を開こうとする会社にとっては、一番肝心なことであるのは言うまでもありません。
場合によっては、掘り始めて1年経っても炭層に当たらないこともあるし、すぐに着炭しても、やがて断層(炭層がとぎれた場所)に遭遇する・・というような事態もめずらしくはないからです。
「時間とお金をかけても、後にそれを取り返せる採炭が可能な場所であるか?」を見極めるこの「試錐」こそ技師たちが全身全霊をかけて行った作業であるわけです。
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試錐塔を持つ「試錐室」の特徴的な外観

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塔の内部には「試錐鉄桿(てっかん)」が備え付けられています。

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鉄桿の先端には金属を植え込みます。

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地底から採取した岩石を分析します。




以下は香焼炭鉱における試錐作業を紹介します。
まずこれは坑内での試錐作業です。
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そしてこれは、香焼島の沖合にある黒瀬での試錐作業です。こうなるともう、岩礁というよりも洗岩(せんがん:干潮の時だけ海面に出る岩)に近いですね!
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黒瀬試錐室内部の様子です。海が荒れると、作業ができないばかりか、高価な機械を失うリスクさえあったことでしょう・・・。作業員の真剣な表情がうかがえます。
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現在の香焼海岸から見た黒瀬です。はっきり言って釣り人も渡るのをためらうような岩場にしか見えません。
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これは海中試錐作業の様子です。これは開坑のためではなく、坑道をどの方向に掘っていくかを決めるためのものだと思います。軍艦島のような海底炭鉱付近の海底には、このような試錐の跡が何カ所も残っているそうです。
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海岸から黒瀬とは違う方向に目を向けると、「悲劇の炭鉱の島・横島」の岩礁が見えています。
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海岸にも試錐の跡が残っていました。錆びた試錐塔の根元部分でしょう・・・
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そして、近くにはかなり大きな炭塊(或いは硬塊)がありました。その塊は、今はもう知る人さえ少なくなってしまった、かつての炭鉱技師の意地と苦労の唯一の証しなのです・・・・。
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明治から昭和にわたる技師たちの試錐の跡も深い山中に、海岸の波に隠され、ほとんどが人の目に触れることなく埋もれてしまっていることでしょう・・・・

「炭鉱町に住んだ人々」 記事一覧


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