通常、「島への上陸」と言いますと・・・・船が島へ近づくと、大きな防波堤に囲まれた港へ入っていき、水深も浅くなるので、海は急激に穏やかになる・・・というパターンです。海が少々荒れていても、上陸する第1歩は、海の上に浮かんでいる浮き桟橋なので、ほとんど問題なく上陸できます。

しかし、軍艦島のツアー上陸地点は下図の赤い部分、ドルフィン桟橋ですが、通常の港とは形状も構造もまったく違うことはおわかりだと思います。
map118
では、なぜ他の島のように防波堤や浮き桟橋を造らないか?
・・・答えは簡単です。造れないからです。

もともと軍艦島(端島)がある場所は、現在の面積の約1/3(資料によっては1/6という説も)であり、とても「島」とは呼べない、小さな岩礁にすぎませんでした。
その為、水深があり、潮流早く、もし防波堤や浮き桟橋を作ったとしても、翌朝にはなくなっているかもしれません。

現在、ツアーのお客さんが上陸しているドルフィン桟橋は海底を掘り下げて石積みの基礎を固め、コンクリートで構築してあります。形状もエンジニア達が練りに練ったもので、言うならば「炭鉱エンジニア達の血と汗の結晶」なのですが、このドルフィンですら、3代目(昭和37年製)であり、1,2代目は台風で流されています。
つまり軍艦島は、島と言うよりも、「海上都市」であり、そういう場所へ上陸するのだと考えてください。









ドルフィンを造る技術のなかった時代、上陸はどうしていたかと言うと、いったん大型船は沖に停泊し、はしけに乗り換えて上陸を行っていました。
下画像は青果などを荷揚げする人たちの様子ですが、比較的海が穏やかな時は、軍艦島側から可動式の桟橋を降ろし、直接上陸していました。
荷揚げ381

しかし、海が少しでも荒れると、直接の上陸が困難な為、下図のように、桟橋からはしけまで鋼鉄製の縄ばしごを垂らし、子どももお年寄りもひとりずつ上陸しなければなりませんでした。
画像に見られるように、周りには何人もの大人がワイヤーを引っ張って船を固定し、上陸を支えました。荒天の中、この上陸はたいそう怖かったことでしょう・・・。はしけでは、母親らしき人物が心配そうに見上げています。
上陸379

長崎県にはそれこそ何百という有人島があり、その島民達は生活の為に上陸を繰り返しているわけですが、まさか昭和29年まで、このような光景が繰り返されていたとは、思わないでしょう・・・。

しかし、軍艦島の歴史が始まって以来、ただの一度も、上陸時の事故はなかったそうです。
その事実を支えたのは、船員をはじめ、かつての「屈強の海の男達」だったわけです。
captain380

しかし、ドルフィンができた後でも、防波堤・浮き桟橋が無い・・・という絶対的なハンディは拭えません。屈強の海の男達でも、この島への上陸は現在でも困難を極めるというわけです。
当時はかなりの波でも上陸を果たしていましたが、あまりにひどい時には、引き返すこともありました。
画像は荒天時のつや丸の様子です。流石と思うのは、この状況におかれても、甲板上の作業員は落ち着いた表情をしています。
つや丸990

では、どういう気象条件の時に上陸の可能性が高いか・・・?

【季節に関係なく、好天で波やうねりが低いこと、多少波があっても北東方面からの波であること】

 ~夏だから波が静か・・・ということはありません。また、天気がいい日は波が無い、風が無い日は波も無い・・・とも言えません。
map118
軍艦島の上陸施設であるドルフィンは左図のように長崎半島側、島の東南にあります。
従って、波の方向が逆サイドの北東方面からのものに強い・・ということは言えると思います。

比較的、冬場は気圧配置の関係から、北よりの波であることが多く、意外に上陸率が高くなります。
逆に夏場は太平洋高気圧の影響で、南よりの波となる日が多く、上陸の難しい場合がわりあい多くなります。

大事なのは、波の寄せてくる「方向と大きさ」ということになります。

クルーズなどは大きな港から出発するケースが多いと思うのですが、こういった場所は、奥まった場所で、波やうねりが入りにくい場所なので、その場所での海の状態はあまり参考にならない・・と考えてください。
また、一日の中でも、潮の流れや潮位は変化し、上陸に影響する場合が多々あります。















波の方向と大きさを確認(予想)するには、気象庁などいくつかのサイトがありますが、たとえばyahooの「天気」から「九州」を選択し、下にあるメニューの中から「波予測」をクリックすると下図のような図を閲覧することができます。
下図では、軍艦島のある長崎半島付近は北からの波で、波高も低い(実際のサイトでは、色別で波高がわかります)ので、こういう時にはおそらく90%以上の確立で上陸できると思われます。(100%ではありません)
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これだと、波の方向は北でいいのですが、九州の西南方面がかなり荒れていることがわかるので、多少波やうねりが出る可能性もあります。この場合、当然上図の場合より上陸率は下がってきます。
wh_306_12

この矢印が南からの方向( ↑ )になって、波高が高いと、上陸はかなりきびしいものになると言わざるをえません。
各サイトでは、最大60時間(3日後)ぐらいまで予測を出しているようですから、ぜひ参考にして頂ければ・・・と思います。




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